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近くは見えるのに遠くを見ると物が二重に見える、そんな症状に悩んでいませんか?それは「スマートフォン急性内斜視」と呼ばれる目の病気かもしれません。
近年、スマートフォンを長時間使用したことが原因で、スマートフォン急性内斜視を発症する人が増加しています。片方の目が寄り目になり物が二重に見える症状ですが、進行すると足元がふらつくなど生活に大きな影響を及ぼします。しかし、早期に発見すれば生活習慣の見直しや治療で治るケースが多く、予防法を実践すれば、発症を防ぐこともできるでしょう。
この記事ではスマートフォン急性内斜視について、治療や予防法をご紹介します。症状についても詳しく解説するため、受診や治療の際の参考にしてみてください。
スマートフォン急性内斜視の特徴
スマートフォン急性内斜視は、スマートフォンやゲーム機器などを近い距離で長時間見続けたことが原因で、寄り目が戻らなくなる病気です。ある日突然発症することがあり、近年若い世代での増加が報告されています。特に、10代~20代の発症が多いのが特徴です。
片方の目だけが内側に寄る
左右の目が異なる方向を向く状態を「斜視」と呼びます。その中でも「内斜視」は、片方の目が内側に寄る状態を指します。
人は物を見る際、眼球を内側に引っ張る「内直筋」と外側に引っ張る「外直筋」を使って視点を合わせます。近くを見る時には寄り目になることで視点を調整しますが、この時、内直筋が収縮して眼球を内側に寄せます。急性内斜視では、スマートフォンのような小さい画面を近距離で長時間見続けることで、左右どちらかの内直筋が収縮したまま戻らなくなり、片方の目が内側に寄った状態になります。
初期段階では、近くを見ている時だけ目が内側に寄るため、自分や周囲が気づかないことが多いです。しかし、症状が進行すると、遠くを見ている際にも寄り目が戻らなくなり、視線の異常が周囲に指摘されたり本人が複視の症状を自覚することで気づく場合があります。
寄り目が元に戻らなくなるメカニズムはまだ解明されていません。スマートフォンの長時間使用が主な原因であることは明らかです。スマートフォンに限らず、受験勉強など近い距離で目を酷使する作業でも急性内斜視が起こるケースが報告されています。
物が二重に見える
スマートフォン急性内斜視になると左右の目が違う方向を向くことから、遠くを見た時に物が二重に見えるようになります。これを複視(ふくし)といいます。
急性内斜視でみられる複視は「両眼複視」で、片目ずつ見た時は左右とも正常に見えるのに、両目で見ると物が二重に見える状態です。これに対して「単眼複視」は片目で見た時でも物が二重に見える状態を指します。
両眼複視の原因は筋肉の異常、または筋肉をコントロールしている脳神経の異常で起こります。スマートフォン急性内斜視では、内直筋が縮み続け元に戻らなくなる筋肉の異常が原因です。そのため、遠くを見る時でも片方の目が内側に寄ったままになり、物が二重に見えてしまうのです。
最初は遠くを見た時だけ複視を自覚しますが、症状が進むと近くを見ても二重に見えるようになり、一日中物をはっきりと見ることができなくなってしまいます。
子供の場合、黒板の字が二重に見えるという訴えではじめて分かり、勉学に支障をきたすことから不登校に至るケースもあるため注意が必要です。
放置すると立体や奥行きの感覚が低下する
複視を治療せずに放置すると、片方の目だけで物を見るようになり、立体感や遠近感が低下していきます。
健康な人の目は左右とも常に同じ方向を向いていて、右目と左目それぞれの網膜にうつる像の差を脳で処理して立体を認識します。つまり立体として物を見るためには、左右それぞれの目から見える異なった2つの像が必要なのです。
しかし、スマートフォン急性内斜視になると両眼複視の症状が表れるため、だんだん片方の目でしか物を見なくなってしまいます。その結果、立体感や遠近感を自覚できなくなってしまうのです。
片方の目だけで物を見ている時の特徴に、顔を傾けることやまばたきの回数が多くなることがあげられます。また症状がひどくなると慢性的な眼精疲労や肩こり、頭痛が生じ、歩く時にふらふらしたり、まっすぐ歩けなくなったりします。
スマートフォン急性内斜視に
なりやすい生活習慣
スマートフォン急性内斜視になりやすい生活習慣には、以下のようなものがあります。該当する項目がないかチェックしてみましょう。
- うつむいた姿勢や寝ころんでスマートフォンを見る
- スマートフォンを30cmより近い距離で見続ける
- 1日4時間以上スマートフォンを使う
- 明るさが十分ではない場所でスマートフォンを使う
スマートフォンに夢中になってしまうとうつむいた姿勢になってしまいがちですが、うつむいた姿勢では画面を凝視してしまい、寄り目の原因になります。また、寝ころんだ姿勢や暗い場所では画面から十分な距離をとるのは難しいものです。画面から目は30cm以上離すようにしましょう。
スマートフォン急性内斜視の原因はまだはっきりと分かっていません。しかし、多くはスマートフォンやタブレットの画面を近くで長時間見続けたことにより発症しているのは明らかです。日頃からスマートフォンの画面と目は十分な距離をとり、長時間見続けないよう心がけましょう。
また、4つの生活習慣を改善してみても症状が続くようであれば、眼科の受診を検討しましょう。
スマートフォンを使う時に
よくない姿勢
スマートフォンを使う時のよくない姿勢を把握しておけば、スマートフォン急性内斜視の発症や悪化を防ぐことができます。普段スマートフォンを使っているときの自分の姿勢がよくない姿勢になっていないかチェックしてみましょう。
うつむいた姿勢
うつむいた姿勢や、画面を覗き込む姿勢は目と画面の距離が近くなりやすいだけでなく、画面を凝視するため内直筋の緊張がより強くなります。
寝ころびながら使う
寝ころんだ姿勢は画面を斜めから見ることになり、目に負担がかかります。また、画面との距離を保つことが難しく、近距離で画面を見続ける原因となってしまいます。
画面に顔を近づける?
画面に顔を近づけると背筋が伸びていても、内直筋は縮んで寄り目になってしまいます。画面と目の距離は30cm以上離すことが大切です。
スマートフォン急性内斜視を
治す方法
スマートフォン急性内斜視の治し方には、日常的な習慣を改善する方法と、治療を受ける方法があります。日常的な習慣の改善で効果が見られない場合、「プリズム眼鏡」「ボトックス注射」「手術」といった治療が選択されることもあります。ここでは、日常的に取り組める方法と、必要に応じた治療法についてご紹介します。
日常的にできること
日常的にできることには、以下のようなものがあります。
- スマートフォンを見る時間を減らす
- 30分使用したら遠くを20秒見て目を休める
- スマートフォンから目は30cm以上離す
- 十分に明るい場所で使用する
- 寝ころんで使用しない
- 眼筋トレーニングをする
スマートフォンを長時間使用している人は、使用時間を減らすだけで斜視や複視が治る可能性があります。1日に使用する時間は、合計で4時間以内に制限し、30分に一度は遠くを見て目を休めるようにしましょう。また、眼球の周りの筋肉を動かす眼筋トレーニングも有効です。顔は動かさず目だけを左右上下に大きく動かすことで簡単にトレーニングができます。
治療
スマートフォン急性内斜視の治療には「プリズム眼鏡」「ボトックス注射」「手術」の3つがあります。日常的にできることを行っても改善しない時には、必要に応じてこれらの治療を検討します。
●プリズム眼鏡
光を屈折させるプリズムをレンズに組み込んだメガネです。光の屈折を利用して像をずらし、複視による見え方のズレを矯正します。また、両方の目で物を見る両眼視機能を促すため、立体感や遠近感を自覚しやすくなります。
プリズム眼鏡は着用するだけで複視や眼精疲労を軽減できるメリットがある一方で、慣れるまでに時間がかかり、通常のメガネより重くなることがデメリットです。プリズム眼鏡には斜視自体を治す効果はありません。
●ボトックス注射
目を動かす筋肉にA型ボツリヌス毒素を注射し、筋肉の緊張をゆるめて目の位置を調整します。2~3日で効果が現れ、約4ヶ月持続します。効果には個人差があり、一度の注射で改善することもありますが、ほとんどの場合は繰り返しの治療が必要です。
●手術
眼球についている筋肉(外眼筋)を動かして、両方の目が同じ方向を向くようにします。一般的に大人は局所麻酔で手術を行い日帰り手術も可能ですが、子供は全身麻酔で行うため入院が必要です。
スマートフォン急性内斜視を
予防するには
スマートフォン急性内斜視を予防するには、上記でも紹介した「日常的にできること」に注意してスマートフォンを使うことが大切です。
- スマートフォンから目は30cm以上離して、画面は正面から見る
- スマートフォンを30分見たら2m以上離れた景色を20秒見る
- 使用時間は1日で合計4時間を超えないようにする
- 寝ころんで見ない
- 十分に明るい場所で使用する
発症を予防するにはスマートフォンを長時間、近距離で見続けないことがポイントです。もし発症しても、症状が軽いうちはスマートフォンの使用時間を短くするだけで複視や斜視が改善するケースがあります。そのため、使用時間を制限することが一番の予防法といえます。仕事などで使用時間を減らすのが難しい場合は、こまめに休憩をとったり、遠くを見たりして内直筋の緊張を意識的にゆるめるようにすると予防につながります。
また、寝ころんだ状態では画面を斜めから見ることになるため目に負担がかかり、画面から十分な距離を保つのも難しいです。スマートフォンを使用する時は明るい場所で椅子などに座り、画面と目は30cm以上離すよう習慣化しましょう。
まとめ
スマートフォン急性内斜視はスマートフォンやゲーム機器などのデジタルデバイスを長時間、近距離で見続けることで発症します。症状は片方の目だけが内側に寄ったままに戻らなくなる内斜視と、内斜視により物が二重に見える複視です。
治すためには、スマートフォンを見る時間を1日4時間以内にする、寝ころんで使用しない、明るい場所でスマートフォンを使うなど、日常的にできる方法と、「プリズム眼鏡」「ボトックス注射」「手術」による治療があります。
日常的にできる治し方は予防法にも共通するため、まだ発症していない人にも有効です。また、日常的にできる方法を行っても改善しない時は眼科を受診して治療を検討しましょう。
症状が進行すると、日常生活に影響が及ぶだけでなく、治療をしても改善が難しくなることがあります。少しでも気になる症状があれば早めに眼科を受診することをおすすめします。