目次
健診でお子さんに「弱視の疑いがある」と言われると「いったいどんな状態なんだろう」と不安になりますよね。弱視は早期に発見し、できるだけ早く治療を始めることで、視力の改善が期待できます。
矯正にメガネを使用しますが、2006年4月以降は、メガネの購入費用も保険適用になったため、自己負担が軽減されました。
弱視というと「ただ単に視力が悪い」という印象が先走りがちです。この記事では、医学的弱視について正しい定義から、弱視の4つの分類ごとに原因などの詳細を解説した上で、保険適用や乳幼児健診に関しても説明しています。病態からメガネの購入費用まで、弱視の全体像を知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
弱視とは?
医学的に、弱視とは「0歳〜10歳ごろまでの視力が発達する過程で起きてしまった何かしらの障害により、矯正をかけても視力が出ない状態」をいいます。
正常な視力の基準は1.0です。1.0以上の視力であれば、いくらあっても正常の範囲内となります。また裸眼で1.0が無くても、メガネやコンタクトレンズで矯正して、視力が1.0あれば問題はありません。
見る対象にピントがしっかりと合っていて、視力が出ているかがポイントです。矯正をしても、視力が1.0に届かない場合に、弱視と判断されます。
似たような言葉に「ロービジョン」があります。WHOの定義は「良い方の目の矯正視力で0.05以上0.3未満」とされており、日本では「何らかの理由で日常生活に支障をきたすほどの視覚障害」をロービジョンととらえています。
弱視は幼児期における視力の発達障害によるものであるのに対し、ロービジョンは発病に関する時期は問わない点が、両者の異なるところです。
弱視の見え方とはどんな感じ?
弱視であっても、拡大鏡などを使用したり、印刷物を拡大したりすることで、私たちが普段使用している文字を見ることができます。
一言に弱視と言えど、見え方には個人差があります。さらには、同じ人であっても、天気や時間、いる場所の明るさ、体のコンディションなどによって、見え方が変化するようです。
以下は弱視の見え方の種類を表にまとめたものです。
近視
遠くのものを見た時に、ピントが合わずぼんやりとしか見えない。
遠視
遠くのものも、近くのものも見えづらい。
歪んで見える
直線的な物でさえも、曲がって見える。視界の真ん中だけが歪んで見えることもある。
視野が制限されてしまう
見える範囲が狭くなる状態。人によって、視野の端が無くなることもあれば、視野の真ん中を失う場合もある。
虫が飛んでいるように見える
小さな虫やゴミが、目の中で飛んでいるように見える状態。
光が走る
角膜の異常や、網膜と硝子体との癒着、脳の異常によるもの。角膜異常が原因の場合は、光の周りに虹のような輪が見える。脳に異常がある場合では、中心から外側に向かって光の輪が広がり消える。
物が2つに見える
左右の目の状態が、極端に異なる場合に起きやすい。
眩しさを感じる
暗い部屋から明るい部屋へ出るなど、明るさの差が大きい時に感じる場合が多い。
以上のような見え方がある上で、これらが複合的に組み合わさり、弱視の見え方を生んでいると考えられています。見え方のイメージは次の通りです。
弱視の種類
弱視は、原因により4つに分類されています。ここでは4分類について、それぞれ解説しています。
① 屈折異常弱視
屈折異常弱視は、遠視・近視・乱視が両目とも強いことが原因で起こる弱視です。
その中でも最も多い原因は遠視です。赤ちゃんの時から常にぼんやりとした視界の中で過ごしていると、視力の成長がうまく進まずに、弱視の原因となります。
3歳児健診や就学時健診で発覚する場合が多く、時には視力検査が可能な年齢になるまで気づかれないこともあります。
診断は、一般の眼科健診でほかに異常がないのを確認した上で、両目に強い屈折異常がないか、点眼薬を使用して検査します。
治療方法は、症状に合った適切なメガネを使用することです。早期に治療を開始するほど、早く視力が成長します。メガネを外すと、見えづらい状態はずっと続くため、視力が改善してもメガネはずっと必要です。
② 不同視弱視
左右の目の視力の開きが大きいことを不同視といいます。良い目ばかり使って、あまり見えない目を使わなくなるため、使わない目が弱視になります。
不同視弱視の最も多い原因は遠視です。遠視では、近くも遠くも、くっきりした視界を得られないため、視力の成長が進みにくくなります。
近視の場合では、遠くのものを見る時は遠視側の目を使い、近くのものを見る時は近視側の目を使うため、不同視弱視になりにくい特徴があります。しかし、近視なら全く不同視弱視にならない訳ではありません。極端に強い近視の場合は、不同視弱視になる可能性もあります。
片側の視力は正常に発達するため、周囲からは不同視弱視だと分かりづらいです。3歳児健診や就学時健診で見つかる場合が多く、片側ずつの視力検査や屈折検査で見つかります。
診断では、屈折異常のほかには何も異常がないかの検査を行った上で、片目に強い屈折異常がないか点眼薬を使用して調べます。
治療では、屈折異常を矯正するためのメガネをかけます。視力の改善が思うようにいかないケースでは、健眼遮蔽(健康な目を隠し、視力が悪い方の目の視力を上げる訓練)を行います。
視力の左右差がなくなり、安定した視力が維持できれば、その時点で健眼遮蔽は終了です。メガネは、屈折異常弱視と同じように、視力が改善した場合でもずっと必要です。
③ 斜視弱視
左右の目を一緒に使って見る「両眼視」がうまくできない場合、右目と左目の視線が別の方向を向いている「斜視」になります。斜視弱視の原因は片目の斜視です。生まれつき斜視があると、斜視になっていない目の視力は良好で、斜視になっている方の目が使われなくなるため、片目の視力だけが発達しない弱視になることがあります。
見た目で分かる程度の斜視の場合は分かりやすいですが、見た目には分かりづらい軽度の斜視が原因となる場合は日常生活では見つかりにくいです。
斜視弱視もまた、ほかの弱視と同様に、3歳児健診や就学時健診で見つかりやすいです。
視力検査で片目の視力不良が見つかると、目の中心で物を見ているかどうかを検査し、斜視かどうかを判断します。屈折異常の有無を調べるために、小児の場合は調節麻痺薬を点眼して、屈折異常を検査します。時には、不同視弱視を合併している場合もあります。
斜視弱視治療は大きく分けて、目の訓練と手術がありますが、基本の治療は目の訓練になります。
固視(物を見る時しっかり見つめて目が動かない)異常がある場合、視力が高い方の目を隠して視力の悪い方の目の能力を上げる訓練(健眼遮閉)を行って固視矯正をします。固視が正常になれば、視力を上げるためにさらに健眼遮閉をしたり、点眼薬や斜視手術を行うこともあります。
(写真出典:やまぐち眼科/斜視|診療内容 https://yamaguchi-eye-clinic.com/medical/squint/ )
④ 形態覚遮断弱視
形態覚とは、物の形を認識する機能のことです。形態覚遮断弱視は、乳幼児期に目の疾患や眼帯装用などによって、片目を使わない期間があると、形態覚が発達せず生じることがあります。形態覚が遮断されてしまうと脳の視覚野が発達せず、弱視につながるからです。
メガネをかけても視力不良になる感覚性斜視(視力障害を伴う斜視)を伴うこともあります。
診断では形態覚遮断の原因となる疾患の有無を検査し、眼底検査を行います。治療の際は、原因となる疾患を取り除くことが第一となります。経過観察の中で、屈折矯正や健眼遮蔽などの弱視治療が行われます。
早期発見・早期治療の重要性
乳幼児健診では、視力検査の項目が必ず入っています。弱視の治療において、早期発見・早期治療に努めることが、どれだけ重要かについて再度解説していきます。
乳幼児検診の重要性
そもそも乳幼児健診は、乳幼児の健康状態を把握し、疾病の早期発見・早期治療につなげるための健診です。
赤ちゃんの成長・発達・栄養状態・先天性疾患などの病気の有無を確認したり、予防接種の時期や種類の確認を保護者と一緒に行ったりします。
弱視の赤ちゃんは、ほとんどの場合、生まれつきであることが多く、赤ちゃん自身で「視力が異常な状態である」とは気づけません。
視力の発達は10歳程度で止まってしまうため、それ以降の治療は効果がないのです。そのため、弱視は早期発見・早期治療が大切です。
弱視と判断された場合はどうする?
弱視と診断された場合の治療目標は「弱視と診断された目の視力を上げること・良好な両眼視を得ること」です。
視力の成長は、生まれてから10歳ごろまで続きます。この視力の成長が続く期間のことを、視力発達における「感受性期」と呼んでいます。視力発達の感受性期を過ぎると、弱視の治療を行っても反応が出にくくなるため、弱視では早期治療がとても重要です。
屈折異常がある場合は、専用のメガネの装用が必須となります。
起きている間は、メガネをかける必要があります。メガネの装用時間をきちんと守ることで、弱視(または視力)の改善が期待できます。
メガネでの治療の次に、健眼遮蔽(健康な目を隠し、視力が悪い方の目の視力を上げる訓練)を行う場合もあります。ただし、副作用もあるので、注意が必要です。
<健眼遮蔽に伴う副作用>
- 良い方の目の視力低下
- 斜視の悪化、出現
- 行動制限
- 心理的影響、周囲の反応
- かぶれ、痒み
健眼遮蔽による治療中は、上記のような副作用を考慮する必要があるため、1〜2ヶ月に1回程度の定期的な通院が必要です。
見た目の変化に伴い、周囲の理解が必要な場合もあります。子供一人ひとりに合わせた、遮蔽時間の設定や方法の選択が重要です。
(写真出典:日本弱視斜視学会/弱視 https://www.jasa-web.jp/general/medical-list/amblyopia )
弱視と判断された場合の保険や助成金はあるの?
2006年4月1日から、弱視の治療用メガネの購入費用も、保険適用の範囲に含まれることになりました。
対象は「健康保険に加入している、申請時に9歳未満の被扶養者」です。
支給対象は「小児の弱視、斜視及び先天性白内障手術後の屈折矯正の治療用として用いるメガネ及び、コンタクトレンズ」となっています。
なお、2019年10月1日付で改正が行われ、現在保険適用で支給される上限金額は以下の通りです。(2023年6月時点)
- メガネ:38,902円
- コンタクトレンズ(1枚あたり):16,139円
まとめ
ただ視力が低いだけでは弱視ではありません。医学的に、弱視とは「視力発達の感受性期と呼ばれる幼児期に起きた障害により、矯正をかけても視力が出ない状態」を表します。
弱視と聞くと、視力を取り戻せないイメージもあったかもしれませんが、早期に発見し早期治療を行えば、視力の改善が期待できるのです。
治療に必要なメガネは、保険適用になるため、現在では自己負担が少なく手に入れられます。
大切なお子さまの目を守るためにも、日常生活で異変を感じたり、健診で指摘を受けたりした場合は、なるべく早めに眼科を受診しましょう。
参考文献
出典:「小児弱視等の治療用眼鏡等に係る療養費の支給における留意事項について」の一部改正について
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/tohoku/shido_kansa/000110061.pdf