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もしお子さんに弱視の疑いがあると言われても、弱視とは何かを知らなければ正しい対処ができません。子供のうちにしっかりとした視力が完成しなければ、将来の生活や職業選択に影響してしまいます。
この記事では「子供が弱視ではないか?」「弱視の疑いがあると言われたけれどどうすればいい?」と悩んでいる方のために、子供の弱視の特徴や治療法について解説します。
そもそも弱視とは
弱視には社会的な弱視と医学的な弱視の2つがあります。
社会的弱視は「低視力(ロービジョン)」とも呼ばれ、通常の教育や生活を送るのに支障が出るほどの視力です。WHOの基準では、矯正視力が0.05~0.3がロービジョンと定義されています。
医学的弱視は「メガネやコンタクトレンズを使っても、矯正視力が1.0に満たない目」のことを言います。どんなに矯正しても0.9止まりであれば弱視なのです。視力については「視力検査とは?やり方から適切な頻度、考えられる病気まで解説!」も参考にしてください。
弱視治療の対象となるのは医学的弱視の方です。弱視の見え方は原因や程度によって、ぼやける、歪む、暗くなるなどかなり個人差があります。
弱視を見過ごされ治療する機会を失った子供は、大人になってから職業選択の制限という壁にぶつかるかもしれません。運転士、パイロット、客室乗務員、警察官などは職業柄、矯正視力1.0以上を求められます。
お子さんが就きたい仕事に就けない、といったことがないように、弱視は早期発見・早期治療が必須です。
弱視の種類・原因
弱視は、目から入る情報が十分に脳の視覚野へ届かず、見る機能が発達しきらないことによって起こります。原因によっては遺伝的要素もあると言われています。
弱視の2つの分類
弱視には、訓練によっても回復しない器質弱視と、弱視訓練によって視力が回復する機能弱視の2つに分類できます。
器質弱視は、光が網膜へ到達するのを邪魔する先天的な眼疾患が関係しています。先天性白内障や先天性眼瞼下垂、病的近視や小眼球といった、眼球が発達する段階から生じる先天性異常が原因です。
一方、機能弱視は眼内に病的な異常はなく、訓練によって弱視が治る見込みがあります。
弱視の4つの種類
- 屈折弱視
強度遠視や病的な強度近視、強度乱視など、屈折度数が強いと光が網膜に到達しにくくなり、弱視になります。 - 不同視弱視
眼球のサイズに左右差があり、度数の開きがあることを不同視と言います。良い方の目ばかり使ってしまうため、使われない悪い方の目が弱視になります。 - 斜視弱視
斜視とは片方の目が上下左右のどこかに向いてしまうことを指します。斜視弱視は、外れてしまった方の目を使わなくなり、脳でものを見る機能が発達しないために起こる弱視です。 - 形態覚遮断弱視
形態覚とはものの形を認識する機能のことです。形態覚が物理的に遮断されてしまうと脳の視覚野が発達せず、弱視になります。先天性疾患を伴う弱視は、この形態覚遮断弱視に分類されます。
子供の弱視の特徴は
気づくことはできる?
子供の弱視に気づくのは、なかなか難しいものです。片目が悪くても、もう片目がきちんと機能していると、子供はそれに適応してしまい、見づらいそぶりを見せることはありません。弱視に限らず、普通の近視で裸眼視力が落ちていたとしても、周囲が「気づかなかった」ということが多いのです。
子供の弱視に気づくことがあるとすれば、先天性白内障により瞳孔が白く濁って見えたり、先天性内斜視で明らかに片目の向きがおかしかったりするときです。
誰の目で見ても明らかな異常がある場合は弱視を疑うことができますが、そうでない場合に弱視に気づくことはかなり難しいと言えます。
一般的には眼疾患を伴わない弱視の方が多いため、小学校の学校検診を受けるまで、弱視が見過ごされてしまうことも多々あるのが現状です。
そのほか、子供の目に関する遠視の記事や色弱の記事も参考にしてください。
( 写真出典 : やまぐち眼科 / 斜視 | 診療内容 https://yamaguchi-eye-clinic.com/medical/squint/ )
子供の弱視に気づいたきっかけ
保護者や周囲の大人が「もしかしたら見えていないのかもしれない」と気づくきっかけになるのは、次のようなものがあります。
- ぬりえや迷路で線がはみ出る
- 小さい文字の本を読まない
- 集中力が続かない
- イライラしている
- 情緒不安定である
- 授業のノートをきちんととれない
- すぐ眠くなる
- よくものにぶつかる
- よくものをなくす
- 目を細めて見ている
- テレビや本に顔を近づけて見ている
- よく目をこする
- 顔を傾けてものを見る
- 顔をひねってものを見ている
- 片目をつむってものを見る
- 視線の向きがおかしい
- あごを上げてものを見ている
以上の症状は弱視以外でも起こりうるため、一つ当てはまったからといって弱視とは限りません。ただの近視や遠視であっても、目を細めて見えにくそうにするそぶりを見せるので、様子だけでは弱視かどうか決められません。
ほかにも、発達障害や識字障害などで本が読めない、授業についていけないことがあります。普通の子供でも、のめりこむとテレビやスマホ、本などを間近で見てしまうこともあるでしょう。
しかし、弱視と判定された子供の保護者が「今思えばそうだったかも」と思い当たる症状の一例が上記なのです。もしお子さんに上記の症状が見られたら、念のために眼科を受診してください。
「3歳児健診」で保護者や周囲の人たちが気づくことが大事
弱視は早期発見できるかどうかでその後の結果が変わります。3歳児健診、就学時健診といった公的な検査で、弱視が見逃されないようにする必要があります。
子供は「今見えている世界がすべて」なので「よく見えなくてもそれが当たり前」になっています。そのため、自ら「見えにくい」と訴えることがほとんどありません。いかに保護者や周囲の大人たちが異常に気づけるかが大切です。
3歳児健診では、自宅で行う一次検査がうまくいかないときは、市区町村指定の会場で二次検査を受けましょう。
オートレフラクトメーターという、屈折度数を調べる器械を併用すると、より高い精度で弱視疑いを検出できます。ただしオートレフラクトメーターは高価なため、どの自治体でも利用できるわけではないという課題もあります。
引越しなどで3歳児健診を受けられなかったような人は、必ず視能訓練士の在籍する眼科を受診してください。早期発見して早期治療を開始できれば、弱視が回復する可能性が高まります。
「見える」は大切。定期的な検査と早めの治療をしましょう
子供の弱視治療には本人の努力もさることながら、保護者の理解と協力が必須です。保護者の弱視に対する考えが甘いと、子供は適切な治療を受けられなくなり、せっかく回復するチャンスを逃すこともあるのです。
視力1.0は、遠くのかなり小さなものまで見える能力ですが「そんなに小さなものまで見えなくてもいい」と考える保護者もいます。しかしそれは、正常な視力のある人だからこそ、好きな見え方を自由に選択できるということです。
弱視の人は、そもそも正常な人と同じだけ視力がなく、選択の余地さえありません。つまりスタートラインからして同じではないのです。
弱視治療の目的は、人間が本来持つ「認知」「知覚」「感覚」の機能を正常に育てることです。五感の中でも視覚情報はかなりの量を占めており、見る機能が発達すると脳の成長に良い影響を与えます。
弱視治療は数ヶ月、数年単位で取り組むものであり、根気強く眼科を受診することが大切です。
( 写真出典 : 公益社団法人 日本視能訓練士協会 / ま目知識3 https://www.jaco.or.jp/ippan/mame3/ 使用画像から作図 )
弱視の検査方法とは
弱視を調べるには次の検査を行います。
- 屈折検査
- 視力検査
- 調節麻痺薬を使った屈折検査
- 両眼視機能検査
- 眼位検査
- 固視検査
- 眼底写真撮影
- 視野検査(心因性視力障害との鑑別に)
以上の検査を行い、眼内に先天性疾患がないかどうかも含め、弱視を総合的に診断します。
弱視の治療方法は?
弱視の治療は弱視の種類によって少々異なりますが、共通する原則は「調節麻痺薬を点眼して作った完全矯正メガネをかけること」です。完全矯正とは「網膜の中心にぴったり光が収束する度数のこと」で、ものを正しく見るためには欠かせない状態です。
弱視治療は感受性が高い時期、つまり月齢が若いほど効果が高くなります。視覚の機能は8歳頃に完成するため、弱視治療の期間は8歳頃までとされていますが、8歳に近づくほど感受性が弱まり、弱視が治る確率が下がります。
屈折弱視の治療
屈折弱視では完全矯正メガネをかけます。発見の時期、弱視の程度にもよりますが、左右差のない屈折弱視は、メガネの装用だけで視力が回復することはよくあります。
( 写真出典 : やまぐち眼科 / 斜視 | 診療内容 https://yamaguchi-eye-clinic.com/medical/squint/ )
不同視弱視の治療
左右差のある不同視弱視では、完全矯正メガネの装用だけで視力が上がらないことがあります。その場合は「良い方の目を隠す」アイパッチ(眼帯)を併用し、悪い方の目を積極的に使わせて、脳に刺激を送る治療をします。
斜視弱視の治療
斜視をともなう弱視は少々厄介です。アイパッチをして良い方の目を隠し、悪い方(斜視になっている方)の目の視力を回復させてから、両眼視を獲得するための斜視訓練を行います。斜視の程度によっては斜視手術を行う可能性もあります。
形態覚遮断弱視の治療
先天性疾患がからむ形態覚遮断弱視では、まずものの形を遮断している原因の疾患を治療します。まぶたが垂れ下がって瞳孔を隠してしまう先天性眼瞼下垂では、まぶたの手術が先です。その後、視力の回復を見ながら、状況に応じて完全矯正メガネを装用します。
子供用メガネは保証が充実しているか要チェック!
弱視治療の子供用メガネを選ぶ際は、価格だけではなく、保証内容に重点を置きましょう。弱視治療が進むと度が変わることや、うっかりメガネを壊してしまうことがあります。保証内容が充実していれば経済的負担がかかりにくくなります。
自治体によっては弱視治療眼鏡の補助金制度が設けられており、申請が通れば高価になりがちな弱視メガネの補助が下ります。
可能であれば、予備のメガネを用意しておきましょう。普通の子供用メガネと違い、弱視用のメガネは治療に必要な医療器具です。常にかけていないと治療効果が薄まるため、万一壊れてしまったときにもすぐに使えるようになります。
メガネの故障を防ぐ方法については「メガネは修理できる?値段の目安や修理にかかる時間を解説」もご覧ください。
まとめ
弱視の分類や検査方法、治療法などについてご紹介しました。
弱視には種類がいくつもあり、弱視の見え方は原因や程度によってかなりの個人差があります。子供の弱視治療の対象となるのは、目の中に生まれつきの眼疾患がない場合です。
弱視治療の原則は、調節麻痺薬を使って作製した完全矯正メガネをかけることです。メガネは常用する必要があるため、壊れたときの予備も用意できるといいですね。
保護者や周囲の大人が弱視を理解すれば、子供の弱視治療がうまくいく可能性が高まります。眼科と密に連携を取り、弱視治療を成功させましょう。