目次
コンタクトレンズの定期健診などで「角膜に傷がついている」といわれたことはないでしょうか?
最近では、デジタル機器の長時間使用を始めとする日常生活の変化に伴い、目を酷使する機会が増え、角膜の傷が問題となるケースが増えてきました。角膜に傷ができると、目の疲れや乾き、かすみ、充血などの不快な症状が引き起こされることもあります。
この記事では、角膜が傷つく原因や角膜の傷が引き起こす症状、悪化させないためのケア方法を解説します。
そもそも角膜とは?
角膜とは、目の中心にある円形の組織です。眼球の最も外側にある透明な膜で、日本人では黒く見えるため「黒目」とも呼ばれています。
角膜を通じて目に入った光は虹彩で調節され、ピントを調節する水晶体で更に屈折し、透明なゲル状の硝子体を通過することで、ちょうど網膜上で焦点を結びます。その光が視神経を通じて脳まで伝達され、画像として認識されます。
そのため、角膜が何らかの原因で濁ったり歪んだりすると、視力が低下します。
角膜の構造・仕組み
角膜は、厚さ約0.5〜1mm、直径1cmほどの大きさで、5つの層で構成されています。最も外側にある「角膜上皮層」は、微生物やゴミなどの異物から目を守るとともに、涙を保持する役割も担っています。
角膜上皮には、皮膚と同じように自己修復機能があり、常に古い細胞が新しい細胞へと入れ替わっています。そのため、小さい傷ができても自覚症状が無いまま自然に治ってしまうことも良くあります。
最も内側にある「角膜内皮層」は、内部にある角膜実質層の水分を調整する機能があります。
角膜に傷がつくとどうなる?
痛い?
角膜は、非常に傷がつきやすいデリケートな組織です。角膜に傷がついた際に引き起こされる症状として代表的なものは以下になります。
- 痛み
- 目の疲れ
- かすみ目
- 目の乾き
- 充血
- ゴロゴロ感
- 眩しさを感じる
- 目の中の灼熱感・ざらつき感・異物感
- 涙目
ただし、傷が小さい場合には自覚症状が無いことも多く、傷があってもなかなか気づきにくいのが特徴です。
角膜に傷がついてしまう原因
現代社会では目を酷使する機会が多く、角膜の傷が問題となっています。ここからは、角膜に傷がついてしまう原因について解説します。
コンタクトレンズの不適切な装用
コンタクトレンズに汚れがある状態で装用すると、角膜に傷がつくことがあります。汚れだけでなく、使用期限が切れたレンズや、破損、変形のあるレンズは角膜に傷がつく原因となります。
特にソフトコンタクトレンズは、乾燥によって水分が失われただけで変形してしまいます。保存する時は、レンズケースに保存液をたっぷりと入れ、レンズ全体を浸すことが大切です。
外傷
角膜は、物理的な刺激を受けた際にも傷つくことがあります。
目にゴミや砂、洗剤や調理油などの異物が入った時は、すぐに流水で洗い流してください。何かが目に入ってしまったり、違和感が続いたりする場合は眼科を受診しましょう。また、目の痒みが強いと、手で擦ってしまう原因となります。花粉症などアレルギー症状のある人は、点眼薬などで痒みをおさえる治療を行うことも重要です。
ドライアイ
ドライアイは、涙の量が減少したり、涙の質が悪くなったりすることによって、涙が角膜全体に均等に行き渡らなくなる病気です。涙には角膜を保護するはたらきがあるため、涙が均等に行き渡らないと、角膜が剝き出しになり傷がつきやすい状態になってしまいます。
目の渇きが気になる人は、眼科受診や市販薬の活用などの継続的なケアを行いましょう。
ウイルス
ウイルス感染が原因で角膜が傷ついてしまう場合もあります。
角膜を傷つける代表的なウイルスは「ヘルペスウイルス」です。
ヘルペスウイルスは、一度感染し、治癒した後にも体内に潜伏を続けるのが特徴です。疲れやストレス、病気などが原因で免疫力が落ちたタイミングで、潜伏していたヘルペスウイルスが再び増殖し、角膜炎や角膜潰瘍といった、重篤な角膜障害を引き起こすことがあります。
目の異物感や痛み、涙目、視力低下などの症状が片目だけにある場合は、原因としてウイルスが疑われます。早めに眼科を受診することが重要です。
角膜の傷によって起こる目の病気
角膜の傷は、その程度によっていくつかの病名に分類されます。角膜の傷によって起こる目の病気は、以下の4つが代表的です。
点状表層角膜症
角膜の表面に、細かい点状の傷がついている状態を「点状表層角膜症」といいます。目がゴロゴロするといったような異物感や、痛みや充血、光を眩しく感じるといった症状がみられます。
点状表層角膜症の原因としては、コンタクトレンズや逆まつ毛、感染症などが代表的ですが、ドライアイや点眼薬の副作用で起こる場合もあります。
一つ一つの傷は点状で浅いため、この段階で治療することができれば重症化することは稀で、ほぼ全員が完治します。ウイルスが原因の場合を除き、特別な治療は必要ない場合も多く、通常は3週間以内に治ります。細菌やコンタクトレズが原因の場合は、抗菌薬の点眼薬や眼軟膏などを使用し、症状の改善が可能です。
気になる症状がある人は、重症化する前に早めに眼科を受診しましょう。
角膜びらん
「角膜びらん」とは、角膜上皮に傷がつき部分的に剥がれた状態のことです。
点状表層角膜症と同じく、目の痛みや充血、違和感などの症状が出ます。外傷やコンタクトレンズの不適切な装用が主な原因ですが、ドライアイや神経麻痺、糖尿病、角膜ジストロフィ(遺伝性の病気)など、様々な病気が原因で生じることがあります。
適切な治療を受ければ、視力障害などの後遺症は残らずに治癒することがほとんどですが、場合によっては再発を繰り返すケースもあるため、注意が必要です。
原因に応じた薬物治療を行うほか、治療用コンタクトレンズを使用することもあります。ほかの病気が原因で起こっている場合には、原因となっている病気の治療も併せて行います。
角膜潰瘍
角膜の傷が、角膜上皮だけでなく角膜実質に達している状態を「角膜潰瘍」といいます。
激しい目の痛みを感じ、痛みに伴って大量に涙が出て、黒目を囲むように白目も充血し、炎症が続くと角膜はしだいに濁って潰瘍ができます。潰瘍の位置によっては視力低下がみられます。重症化すると、角膜に穴があく角膜穿孔(かくまくせんこう)に至り、場合によっては失明することもあります。
角膜潰瘍の原因は、細菌やウイルスへの感染、自己免疫疾患やアレルギー反応など様々です。治療は、原因に応じた薬物治療や治療用のコンタクトレンズが中心ですが、視力に影響が及ぶほど角膜が強く濁っている場合は、角膜移植を行って治療することもあります。
感染性角膜炎
角膜に傷がつくと、そこから細菌やアメーバが角膜の内部に侵入し「感染性角膜炎」を引き起こす場合があります。感染性角膜炎では、目の痛みや目やに、充血などの症状がみられます。
角膜上皮には自己修復機能がありますが、角膜上皮の内側にある「角膜実質」は自己修復機能が弱いため、傷ができると治りにくく、さらに内側の「角膜内皮」は一旦傷がつくと元には戻りません。そのため、感染性角膜炎を治療して細菌やアメーバを取り除いても、感染の影響で角膜の透明性が失われ、治癒後も視力が低下するといった後遺症が残る場合もあります。
原因となっている病原体によって、抗生物質や抗ウイルス薬、抗真菌薬などの点眼や眼軟膏、内服薬を使い分けて治療します。視力に後遺症を残さないためにも、早めの治療が大切です。
角膜に傷をつけないための注意点
目に不調がある時は、正しく対処しないと角膜に傷をつけてしまう可能性があります。角膜に傷をつけないための2つの注意点をご紹介します。
コンタクトレンズの装用を控える
目の疲れ、かすみ、乾き、充血などの不調がある時は、コンタクトレンズの装用は控え、メガネですごしましょう。コンタクトレンズを装用すると目が乾燥しやすくなり、細菌などの異物を涙で洗い流すことができず、角膜に傷がついてしまうことがあるためです。
また、目の不調を感じる時は、すでに角膜に傷がついてしまっている可能性も考えられます。症状がなかなか改善しない場合や、徐々に悪化している場合は早めに眼科を受診しましょう。
目薬の使用方法に気をつける
目の不調を感じる時に、目薬を使用する人も多いかもしれません。しかし、目薬の使い方を誤ると、角膜の傷が悪化してしまう可能性もあります。
目の不調が気になると、つい何度も目薬をさしてしまう人もいますが、決められた用法用量を超えた回数で使用すると、逆に角膜に傷をつけてしまうこともあります。自己判断で市販の目薬を使う時には、箱や説明書に書かれている使用方法を守って使うことが大切です。
また、以前眼科でもらった目薬の余りを使用するのは避けたほうが無難です。市販の目薬よりも作用が強いものが多く、使用が適していない状況で使うと、症状を悪化させてしまう可能性があります。
角膜の傷を悪化させないための
ケア方法
角膜に傷がついてしまった時は、医師の指示に従って治療を進めるとともに、悪化させないためのケア方法も試してみましょう。
まばたきをする
まばたきの回数が減ると涙が蒸発しやすくなるため、角膜が乾燥し、ダメージを受けやすくなります。
特に、パソコンやスマートフォンなどデジタル機器の画面を注視している時は、まばたきの回数が通常よりも少なくなりがちです。意識してまばたきの回数を増やし、角膜の表面を覆っている涙の量を安定させることで、傷の悪化を防ぎましょう。
まぶたを温める
スマホやパソコンを長時間使用している時や目の疲れを感じた時には、ホットタオルや市販の温感アイマスクなどで目を温めるのもおすすめです。
涙の蒸発を抑えるために、涙の表面は油の膜でコーティングされています。この油の膜を作るのが、まつ毛の根元付近にあるマイボーム腺です。目を温めると、マイボーム腺につまった油が溶けることで涙が安定し、角膜の傷が悪化するのを防ぎます。
専用の目薬を使用する
症状が軽い場合は、市販薬でも角膜保護成分の入っている点眼薬を使用するのがおすすめです。
角膜上皮は、肌と同じく自己修復機能があり、ターンオーバーを繰り返して新しい細胞に入れ替わります。ビタミンAは、角膜上皮細胞の再生を促す「ヒアルロン酸」を産生し、角膜表面の修復を促進します。
使用する場合は、箱や説明書に書かれている使用方法を守って使いましょう。
まとめ
角膜は目の中心に位置し、光の通過とピントの調節に重要な役割を果たしています。
角膜は非常にデリケートで傷つきやすい組織です。コンタクトレンズの不適切な使用や外傷、ドライアイ、ウイルス感染などが原因で傷が生じると、痛み、かすみ目、充血、異物感などの症状が現れ、場合によっては重症化し、視力へ影響を及ぼすこともあります。
後遺症のリスクを軽減し、目の健康を守るためにも、早期の適切な治療やケアを心がけましょう。