目の悩み
公開日:2022.03.25 / 最終更新日:2022.07.25

認知症は目に関係する?目の治療で認知機能が向上した事例も解説

この記事の監修者

内野 美樹

ケイシン五反田アイクリニック 院長

認知症は目に関係する?目の治療で認知機能が向上した事例も解説

目次

「字が読みづらいので、好きだった読書をやめてしまった」
「映画が好きだったのに、テレビの字幕が見えにくいので見なくなった」
見えない生活が当たり前になってしまい、なんとかしたいけれど、なかなか億劫で動きたくない…

そんな方は身近にいらっしゃいませんか。

高齢者の視力低下の原因は様々ですが、最も多いのが白内障です。白内障は自然に治るものではありません。白内障を治療する事で、認知症が改善するケースがあります。

この記事では視力と認知症の関係、認知症とはどのような病気なのか、認知機能が改善するケースなどを詳しく解説していきます。

認知症と目の健康の関係

奈良県立医科大学の研究では、視力に障害があると認知症になるリスクが2倍高くなることが報告されています。以下では白内障を例に、認知機能の低下の流れを説明します。

1.視力が低下する

視力が低下する

白内障は「誰でもなる病気」であり、視力低下や眩しさ、目の焦点が合わない、白くかすむ、二重に見えるといった初期症状があります。

白内障の進み方は個人差があり、数年間それなりに見えている人もいれば、数ヶ月で一気に見えなくなってしまう人もいます。ひどくなると物の形もぼんやりとしか分かりません。

2.情報量が減少して、脳機能の低下

好きだった編み物

目の見え方が悪くなると、目から入ってくる情報が遮断され、脳への刺激が弱くなります。

はっきりとは分かっていませんが、脳は目から約80%の情報を得ているという説もあります。脳は刺激を感じることで活性化し、元気でいられますが、物がよく見えない世界になると本来の働きを維持できません。

例えば以下のような状況になることがあります。

  • 編み物が好きだったけれど、見えないからやめてしまった
  • 老眼鏡をかけても見えないから新聞も読まなくなった
  • テレビは見づらいから大型を買ったけれど、それでも見えない

このような状態では、「何かやりたい」という欲求を諦めるしかなく、意欲の低下は抑うつを引き起こす可能性もあります。

3.身体機能が低下する

身体機能が低下する

物が見えなくなり、やる気がなくなると、体を動かす理由がなくなります。

高齢者で視力が悪くなってきた場合、以下のようなリスクもあります。

  • 段差につまづきやすくなる
  • 頭をぶつけやすくなる
  • 転びやすくなる

そこへ意欲の低下が加わり、「人と会ってもよく見えないから外に出たくない」と、自宅にこもりがちの生活になってしまいます。動かないから体が弱り、体が弱るからさらに動けなくなるという、負の悪循環になってしまいます。

4.認知機能が低下する

心も体も弱ってしまえば、脳はどんどん不健康になっていきます。その結果、認知機能の低下を招き、もの忘れがひどくなり、日常生活に支障をきたすようになります。

このように、視力低下を放っておくと認知症のリスクが増大します。

そもそも認知症とは

認知症とは一度正常に発達した脳が、委縮したり、ケガを負ったり、血管に障害を引き起こしたりして、記憶・言語・知覚・思考に機能低下をきたした状態のことです。

65歳以上では約16%が発症していると言われていますが、診断されていないケースも考えると潜在的にはもっといるかもしれません。

認知機能の低下の原因に白内障がある場合、白内障を治療することで、次に説明する認知症の症状が改善する可能性があります。

認知症の初期症状

初期の認知症はベテラン専門医でも診断が難しく、認知機能判定テストをパスしてしまうこともあり、加齢による変化との区別がつきにくいようです。

もの忘れ

もの忘れが多くなってきたら記憶障害を疑います。体験したことを忘れる、頻繁に物を探す、失くす、同じことを何度も聞くといった症状があります。

意欲低下

なんとなくやる気が出ない、今まで好きだったものに関心を示さない、といった意欲の低下、抑うつ症状があります。

お金の計算ができない

お金の管理や計算ができない、買い物や家事にやたら時間がかかる、といった場合は実行機能障害が始まっているかもしれません。

人格の変化

もともと頑固だった人がもっと頑固になる、怒りっぽい人がもっと怒りっぽくなる、あるいは別人のように疑り深くなる、といった心理症状、人格の変化が現れることもあります。

認知症の症状の分類

認知症の症状は「中核症状」と「周辺症状」の二つに分類されます。中核症状は脳の障害に伴って誰でも必ず現れます。一方で周辺症状はその人の過去や性格、生活環境などにより、症状の現れ方に個人差があり、無症状の人もいるようです。

中核症状

1.記憶障害

1.記憶障害

最近の出来事ほど覚えていられません。体験した事を丸ごと忘れてしまうため、同じ事を何度も聞きます。記憶が数十年前の過去の世界に戻るため、自分を20代と思い込み、子どものお弁当作りをしようとすることもあります。

2.見当識障害

2.見当識障害

認知症が進むにつれ、日時、場所、人物の順に分からなくなります。徘徊はこの見当識障害に由来するもので、認知症患者は自宅を求めて自宅から外出し、さらに今の居場所が分からなくなってしまうのです。

3.理解・判断力の障害

3.理解・判断力の障害

状況判断ができなくなります。道に迷っても「人に聞く」事ができない、火をつけっぱなしの鍋を見ても「火を止める」事をしないなどです。本人は煮立った鍋を見ても、どうしていいのか分かりません。

4.実行機能障害

4.実行機能障害

目的を達成するための手順が分からなくなります。目的地に行くための電車の乗り方が分からない、家電の使い方も分からないといった具合です。特にマルチタスクが要求される家事全般にはかなり支障があるでしょう。

5.失行

5.失行

運動機能には問題ないですが、今までできていたことができなくなります。服を着るのに上下左右、裏表を逆にしてしまう、箸の使い方が分からなくなるなどです。

6.失語

6.失語

相手の話していることは理解できてもうまく話せず、会話に「あれ」「それ」が増えます。「シャツ」と「ズボン」を言い間違えたり、文字の読み書きができなくなったりします。

7.失認

7.失認

知っているはずのものを認識できなくなります。目の前に探しているハサミが置いてあってもずっと見つけられない、人の顔が分からず夫と息子を間違えるなどです。また、聞き覚えのある音も認識できません。

周辺症状

1.抑うつ

1.抑うつ

やる気も出ない、意欲も湧かない、自信もなくなりどんどん落ち込んでしまいます。

2.幻覚・幻聴

ないものが見える、聞こえない音が聞こえます。亡くなった昔の知り合いが見える、部屋で犬が吠えているのが聞こえるなどです。

3.興奮

3.興奮

突然怒り出し、騒ぎ出すことがあります。大きな音を立てて興奮状態になります。

4.睡眠障害

体内時計の乱れから、昼夜逆転の生活になることもあります。不眠でなかなか寝付けない、寝ても数時間で起きてしまうと言った症状です。

5.人格変化

元の性格が強くなったり、別人のようになったりします。さらにこだわりが強くなるほか、別人のように怒りっぽくなることもあるでしょう。

6.妄想

6.妄想

被害者意識が強く表れ、「いじめられている」「財布を盗まれた」などと訴えることが多くなります。

7.不潔行為

7.不潔行為

失禁や失便は、尿意があっても脳が識別できず間に合わない、トイレがどこにあるか分からなくなることから起こります。排泄物を認識できず、体が汚れていても気になりません。

8.異常食行動

8.異常食行動

食べ物ではないものを食べる異常食、食べ続けてしまう過食、食べるのを嫌がる拒食があります。

9.徘徊

見当識障害や記憶障害により、居場所が分からなくなったり目的を忘れてしまったりして延々と歩き続けてしまいます。

10.多弁 多動

そわそわして落ち着きがなく、一人でずっとしゃべり続けます。何か興奮する出来事があると一日中興奮しっぱなしということもあります。

11.暴言 暴力

被害意識が根底にあると見られ、周囲の何気ない対応に突然怒り出したり、軽く注意されただけで手が付けられなくなったりします。

目の治療をして
認知機能が改善したケース

白内障の手術がきっかけで、認知機能とうつ症状が改善した研究結果を共有します。

日本老年医学会によると、白内障手術の結果、視覚関連のQOL(「見る機能」が関わる生活の質)が上がり、認知機能やうつ状態が改善することが分かっています。

視覚関連のQOL:チェック項目

  • 遠くの見え方
  • 社会生活の機能
  • 近くの見え方
  • 心の健康
  • 車の運転
  • 役割の制限
  • 色の見え方
  • 自立できているか
  • 周辺の視野の広さ

など25項目

読書や外出への意欲が湧く

視覚関連のQOLは100点満点でスコア化されますが、白内障手術前のスコアは66.6なのに対して、術後は82.2までアップすることが報告されました。

白内障が治ると視力が回復します。すると、読めなかった本が読めるようになり、見えなかった足元や景色が見えるようになるため、読書や外出への意欲が湧くようになります。

「見えるようになる」ことで認知機能とうつ症状が改善し、うつ症状が良くなればさらに認知機能も上がるというプラスの相乗効果があるのです。

まとめ

目が見えない状態を放っておくと、脳は情報の大部分を失うことになります。その結果、「見たい、知りたい、やりたい」ことができなくなるため、意欲の低下が起こります。億劫になると身体機能も落ち、認知症を発生するリスクが上がってしまうでしょう。

白内障手術をすると、ぼんやりとした世界が明るくはっきりと見えるようになります。様々な情報が光の刺激となって脳を活性化し、諦めていた事や関心が薄れていた事に興味を持てるようになるでしょう。

老眼で見え方にストレスを感じている方は、自分に合ったメガネをかける事でストレスを少しでも減らし、生活が豊かになる可能性もあります。目の健康を保ち、認知症になりにくい生活を維持できるとよいですね。

参考文献

出典:『認知症の9大法則 50症状と対応策』 杉山孝博

出典:『認知症の正体 診断・治療・予防の最前線』 飯島裕一 / 泰司佐古

出典:『ボクはやっと認知症のことがわかった 自らも認知症になった専門医が、日本人に伝えたい遺言』 猪熊律子 / 長谷川和夫

監修者プロフィール

内野 美樹

ケイシン五反田アイクリニック 院長

HP:https://www.keishin-eye.com/

山梨医科大学 医学部卒業後、慶應義塾大学 眼科学教室入局。米・ハーバード大学 公衆衛生学修士取得。慶應義塾大学 眼科学教室 特任講師。
眼科のなかでも「ドライアイ」を中心にした角膜の疾患を専門とする。日本におけるドライアイについての疫学研究の第一人者であり、近年増えている長時間のパソコン作業によるVDT(Visual Display Terminal)症候群などの研究を行っており、日本のドライアイの有病率、パソコン使用時間とドライアイとの関係について世界で初めて証明した。ドライアイにつながる危険因子を研究し、ドライアイ診断に関する国際的な基準づくりにも携わる。
予防医療の啓蒙活動にも力を入れ、『しまじろうとEye Care Book』幼稚園や保育園の先生の目の教科書となるような『子どもの目見守りサポートBook』を作成。
目の健康について学び、セルフケアができるよう、『ナカナイ涙』などのWebサイトの監修も手掛ける。

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