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人生で何度も経験する視力検査ですが、視力検査で何がわかるのか考えたことはありますか。学校検診や運転免許の更新で機械的に測っている視力検査には、実は大切な意味があります。
今回は視力検査表の見方や、視力と目の疾患の関係、視力検査のやり方や頻度についても解説します。適切な検査で大切な目の健康を守りましょう。
視力検査とは
視力検査は全ての眼科検査で最も基本的、かつ大切な検査です。視力検査の目的は「目に入ってきた光が脳に到達するまでの間に異常がないか」を数値化して記録することです。
たとえば「最近何となく見づらい」という症状があっても、以前に比べてどのくらい見えにくいのか主観的な言葉でしか表現できません。
しかし、数値化した検査結果を積み重ねていくと、どこでどのように視力が低下しているのか客観的に分かります。
視力検査は眼鏡やコンタクトレンズを作る以外、運転免許の更新時、警察官や運転士などの職に就く際にも必要な検査です。
視力検査で重要なのは、眼鏡をかけた時の矯正視力です。たとえ裸眼の視力が0.1を下回っていても、矯正した視力が1.0見えていれば「正常範囲」と判定できます。一方、裸眼の視力が0.5でも、矯正した視力が0.6しか見えないと正常とは言えなくなります。
視力検査は、目が正常か異常かを判定する一定の基準として、なくてはならない検査です。
視力検査のやり方
視力検査のやり方は、使う視力検査表の種類によって異なります。検査は決められた距離と室内の明るさを保ち、片目ずつ行います。視力検査室の明るさは約500ルクスと定められているため、自宅内に比べるとかなり明るいでしょう。
ランドルト環
日本では「C」のような指標を使う視力検査が一般的です。「C」をランドルト環と言い、大きいサイズの0.01から小さいサイズの2.0までの視力値を小数で表します。
ランドルト環視力表を使ったやり方は、徐々に小さくなるランドルト環の切れ目の向きを答えていき、上下左右が判別ができるギリギリのところを視力値として記録するというものです。
ランドルト環視力表には2種類あり、一つはずらりとランドルト環が並んだ「字づまり視力表」、もう一つは一個ずつランドルト環が表示される「字ひとつ視力表」です。
一般的には字づまり視力表を用いますが、幼児は読みわけが困難なため、字ひとつ視力表を用います。
視力1.0とは、切れ目の幅が「1分(1′)」のランドルト環を、5mの距離で判別できる力のことです。言い換えると「1度(1°)を60で割ったサイズの切れ目を、5m離れた場所から見えれば視力1.0」です。
オートレフラクトメーター
オートレフラクトメーターは眼科や眼鏡店で視力を測る前に使う器械で、屈折異常(近視、遠視、乱視)を調べるために行います。覗き込むと、赤い気球が見える検査、と言うと分かりやすいかもしれません。
オートレフラクトメーターが発達したおかげで、視力検査にかかる時間を大幅に短縮できます。手持ち式の小型タイプもあり、乳幼児や車いす利用者など、器械のあご台に顔を乗せられない人にも対応できます。
まず、顎台に顎を乗せ、額あてにおでこをつけます。そして器械の中をのぞき、遠くの方にある気球や家などを見ます。一瞬視界がぼやけ、測定音が鳴り、ものの数秒で検査は終了です。
オートレフラクトメーターで測る時は、リラックスして遠くの方を見るようにしましょう。目の前にあるものを見る時は「調節力(ピントを合わせる力)」が働き、目は一時的に近視化してしまうため、力が入ると本来の数値よりも近視が増えてしまうのです。
赤緑試験(レッドグリーンテスト)
赤緑試験は、レッドグリーンテストとも呼ばれ、視力検査で合わせたレンズの度数が「過矯正(度の入れ過ぎ)」「低矯正(度が弱め)」でないかを判断するためのものです。
光には波長があり、人間が見える波長の光を可視光(かしこう)と言います。波長の長い色から順に赤、橙、黄と続き、緑、青、藍色となるにつれ短い波長の色になります。紫外線が肉眼で見えないのは、可視光から外れているためです。
赤緑試験はこの波長の長さを利用しています。たとえば近視の人が度の強すぎる眼鏡をかけた場合、赤と緑を比べると、網膜に近いのは緑になります。つまり「緑色が濃く見える」という回答になるのです。
また、遠視の人が度の強すぎる眼鏡をかけた場合は、網膜により近いのは赤になるため「赤色が濃い」ことになります。
赤緑試験は調節力の影響を強く受けるため、見る人の年齢が若いほど精度が落ちます。眼鏡やコンタクトレンズを合わせた最後に、簡易的にチェックするツールとして使うことがほとんどです。
その他の視力検査
Eチャートの使用
Eチャートは、ランドルト環と同じく文字の切れ目を答える検査方法で、アメリカや中国などで頻繁に使用されています。様々な方向を向いている「E」という文字の開いている方向を答えて、視力を測定します。検査を行う際の視力表からの距離は、ランドルト環では5メートルなのに対し、Eチャートでは6メートルです。
スネレン視標の使用
スネレン視標は、ランドルト環やEチャートとは異なり、文字の切れ目ではなく「種類」を答える検査方法です。欧米で使用されることが多く、Eチャートと同じく視力表から6メートル離れて検査を行います。11行に並んだ様々なアルファベットを、1行目の大きな文字から下の方の小さな文字に向かって読み上げることで視力を測定します。
視力検査の種類
視力検査表はランドルト環だけではありません。しま模様や小さい点で測る乳幼児向けの視力表もあります。どの視力検査表も使う目的や対象者によって使い分けるのが一般的です。
PL法(乳幼児向け)
乳児を対象とした視力検査方法にPL法(Preferential Looking法)があります。「赤ちゃんに視力検査ができるわけがない」と思う方もいますが、PL法を使えば可能です。
PL法は新生児〜1歳くらいまでの乳児に使われる視力検査方法で、乳児が「無地よりしま模様を好んで見る」特性を生かして考案されました。
赤ちゃんの目の前、約40㎝の距離に無地としま模様のプレートを同時に出し、赤ちゃんの目や頭が瞬間的にしま模様を追うしぐさをもって「見えた」と判定します。
森実ドットカード(幼児向け)
ウサギやクマのシンプルな顔が描かれた、カードサイズの視力検査表です。検査対象はランドルト環の字ひとつ視力表でも検査ができない幼児で、検査の距離は30㎝です。
まず、大きな目が描かれたウサギのカードを見せ「ウサギさんの目はどこかな?」と問いかけます。幼児には指を差して答えてもらいます。
正答したら、次のカードを見せます。次第にウサギの目は小さくなり、一番小さいサイズ(1.0)は大人でもよく見ないと分かりません。
1枚だけ目のないウサギがおり、目のあるウサギと交互に出すなどして、適当に答えていないか、本当に見えているかを確認します。
絵指標(小児や知的障害者など向け)
だんだんと小さくなる動物の名前を答えていく絵指標は、約1~3歳の幼児を対象にした検査方法です。子どもは集中力が続かないため、無機質なランドルト環だと興味を持ってくれません。
そこで「魚、蝶、犬、鳥」のシルエットがひとつずつ描かれた絵指標を使うと、ランドルト環より強い興味を持って検査に協力してくれるのです。
絵指標での検査ができるようになると、より精度の高いランドルト環視力表での検査へとステップアップが可能です。
近見視力検査(近くが見えにくい人向け)
ランドルト環やひらがなを使い、30㎝の距離で視力検査する方法もあります。大人の場合、老眼が始まった人の検査や老眼鏡の度数が合っているかの確認で使うのが一般的です。
最近では若い世代でもパソコン作業が増え、年齢のわりに近くの見づらさを訴える人も増えています。近見視力検査は、デジタル機器による眼精疲労から来る見え方の低下も検査可能です。
子どもが行う場合は、調節力の働きが弱っている時や弱視治療の経過を見る時などに使うこともあります。
さらに、日常生活に相当な制限を受ける低視力者(ロービジョン)の学習能力や作業能力の判断にも用いられるため、近見視力検査は用途が幅広いと言えるでしょう。
視力検査を受ける
適切な頻度とは?
以下のような方は3ヶ月に1回の頻度で視力検査をしましょう。
コンタクトレンズを装用している
日本眼科医会によると、コンタクトレンズ使用者で3ヶ月に1回の定期検査をしている人は23.2%です。使用者の7〜10%は目に障害を受けた経験があるため、定期検診は意識的にした方がいいでしょう。
近視が始まった子ども
子どもの近視の進み具合は個人差があります。1年間でわずかに進行することもあれば、数ヶ月で一気に進むこともあります。度の合わない眼鏡は子どもの正常な発達を妨げる可能性があるため、こまめな検査が必要です。
眼疾患の経過観察
治療のための目薬などを処方されている場合は、切らさないように受診しましょう。原則はかかりつけ医の指示に従うことです。3ヶ月を待たずに見え方が悪くなるようなら、早めに相談しましょう。
視力検査に関するよくある質問
今まで視力検査を受けてみて「なぜかな?」「どうなのかな?」と思ったことはありませんか。ここでは視力検査で感じる疑問や質問に答えます。視力検査を知ると、より正確な検査結果を得られます。ぜひ病気の早期発見に役立てましょう。
自宅で検査ができるかどうか?
自宅でも視力検査はできます。手書きでも可能ですが、かなり手間がかかるため、インターネットからダウンロードする事をおすすめします。省スペースにもなるため、距離は3m用で十分です。
また、最近では視力検査用アプリも多く作られています。各アプリによって測り方が違うため、使う前に使用方法を確認してください。
自宅で行う場合、特に気をつけたいのが部屋の明るさです。なるべく天気の良い日の昼間に、一番明るい部屋で行うのが理想的です。
どれくらいから矯正が必要?
メガネやコンタクトレンズでの矯正が必要になる視力には個人差がありますが、一般的には視力が0.4以上あれば、日常生活に支障は少ないとされています。
しかし、矯正が必要になる視力は、その人の職業や生活スタイルによって大きく異なります。例えば、細かいものや遠くを見る機会の多い仕事や、黒板を見る必要がある学生などは視力が低いと不便なため、視力が0.4以上でも矯正を行う場合があります。また、運転免許の取得や更新の際には両眼で0.7以上の視力が必要です。これに満たない場合は矯正する必要があります。
もれなく矯正が必要とされる基準は、視力0.3未満とされています。学校の視力測定や運転免許証の視力基準で、片眼の視力が0.3未満の場合は矯正が必要とされていることからも分かるように、矯正せずに生活できる視力は0.3が限界といわれています。
ただし、見る能力を育てる必要のある幼児の矯正は、できるだけ早い段階で行い、視力を育てていく必要があります。幼児の場合、少しでも気になることがある時は早めに眼科を受診しましょう。
検査結果の数値の見方が分からない
眼鏡の処方箋によく書かれている用語を解説します。
Sph(球面度数)
レンズの度数のことで、近視なら「-」、遠視なら「+」がついています。
Cyl(円柱度数)
乱視のことで、ほとんどが「-」で表記されます。
Axis(軸)
乱視の角度のことで、必ず乱視とセットで書かれます。
PD(瞳孔間距離)
左右の黒目を結ぶ距離のことです。
Prism(プリズム度数)
斜視がからむ疾患がある場合、プリズムという特殊なレンズを使います。
Base(基底)
プリズムレンズの向きを「In、Out、Up、Down」の4方向で表記します。
ADD(加入度)
手元補正用のプラス数値のことを指し、加入度数と言います。主に遠近両用レンズなど累進レンズの処方に出てくる表記で、遠くを見る時の度数に対して、近くを見る時に度数をどのくらい「足す(ゆるめる)」かを示しています。addition(アディション)の頭文字3つを取った用語です。
検査結果で判明する病気はあるのか?
視力検査だけで特定はできませんが、視力低下を伴う病気の一例には以下があります。
●調節力異常
調節力が正常に働かず、遠くや近くを見る時に焦点が合いにくくなります。
●角膜疾患
角膜は目の一番外側にあり、ゴミが入ると激痛が走る部分です。ヘルペスやコンタクトレンズによる角膜炎などで視力が低下します。
●水晶体疾患
水晶体(目の中にあるレンズ)が濁ってしまう白内障が代表的です。
●網膜疾患
網膜に病気があると視力低下や視野の欠け、歪みを引き起こします。代表的な疾患は加齢黄斑変性です。
はっきり見えない時はどう答える?
視力検査は、ランドルト環の切れ目がはっきりと見えるところを調べる検査ではなく、ぎりぎり判別できるところを探る検査です。
そのため、はっきりと見えない時にも、ぼやけたランドルト環を見て切れ目と思われる方向を答えましょう。この時、目を細めると見やすくなることがありますが、本来よりも良い視力が出てしまい、正確な視力が分かりません。
はっきりと見えない時でも目は細めず、切れ目の方向を推測して答えましょう。
視力1.0の次が1.1ではないのはなぜ?
視力表では、視力1.0までは0.1刻みですが、視力1.0以上は1.2や1.5と飛び飛びになります。これは、視力と視角の関係が原因です。視角は、ランドルト環の隙間と目の中心が作る角度です。視力は1÷視角で計算されるため、視角が小さいほど視力は高くなります。
視力が1.0以上になると、視角の差で視力を区別するのが難しくなります。例えば、視力0.1と0.2の人で見える視角の差は大きいですが、1.0と1.1の人の違いは小さく、視力表では正確に測定できません。そのため、視力1.0以上では飛び飛びの数値になります。
まとめ
視力検査表にはなじみの深いランドルト環の他、絵やしま模様を使う方法もあります。
基本的に視力検査では裸眼視力よりも矯正視力が重要です。目を細めたりせず、正しく検査をすれば、病気の早期発見に繋がる事もあります。
自宅で視力検査をする場合は、部屋の明るさに気をつけ、使うツールが定める距離をしっかり守る必要があります。
できれば3ヶ月に1回の頻度で定期検査を受け、積極的に見え方のチェックをしましょう。
参考文献
出典:『視能学』 丸尾敏夫 / 久保田伸枝 / 深井小久子
出典:『眼科検査ハンドブック』 小口芳久 / 澤充 / 大月洋 / 湯澤美都子
出典:『視能矯正マニュアル』 丸尾敏夫 / 川村緑 / 原沢佳代子 / 深井小久子